プライベート不動産会社について、今月も実例をご紹介します。

今回は、家族もなく、一人で生きて行くために、いらない不動産を断捨離した事例です。

相続人がいない、いても遠縁、という方は、これから増えてくるでしょう。

日本では、長年の相続を経て、持ち主が正確にわからない不動産が沢山ある現在、自分の代で「打ち止め」にしたいという相談です。

 

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「近々、心臓手術をすることになった。もしも、そのまま目が覚めない事を考えると、いま出来る限り整理をしておきたい。」という連絡がT様から来ました。

T様とは、私が学生時代からの知り合いですから、かれこれ40年のお付き合いです。

私が卒業後、不動産会社に就職したので、何回か家のことで相談を受けたことはありますが、ほぼ30年振りの再会でした。

 

T様が東京に住んでいた頃、老後に夫婦で暮らそうと、さる関東の地方都市に住宅地を購入しました。

ところが、その後、離婚することになり、郷里の瀬戸内海の島へ帰りました。

瀬戸内海の島々を小型船で目的地まで送り届ける「海上タクシー」をしていましたが、島々が大橋でつながると、需要は激減し廃業しました。

 

その後は代々のミカン農家をしていましたが、親も亡くなり、家族もおらず一人になりました。

若いころ買っておいた土地に移り住もうかと一瞬考えましたが、誰ひとり知り合いもいない土地に行くより、瀬戸内の島で土に還ろうと決め、土地はしばらく放置していました。

 

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ところが、70歳を過ぎた頃、心臓に欠陥が見つかり手術することになりました。

代々住んでいる土地柄ですから、親戚はいますが、みな高齢化して、話したこともない子供、孫の世代に代替わりしています。

もし、手術がうまく行かず、そのまま亡くなった時のことを考えると、あらゆることを整理しておこうと思い立ちました。

農地は親戚に贈与したり、家の荷物も整理しましたが、気がかりなのは遠く離れた関東の土地のこと、その整理をして欲しい、との相談になったのでした。

 

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何種類かの委任状を書いてもらって、当社で動きました。

お金が欲しくて処分するのではないので、タダでもらってくれる人が居れば、それでも良いとのことでした。

 

人口が減っている地方都市は、買い手もいないので、となりの人に声をかけたり、市役所に寄附はどうかと問い合わせたり、現在、T様に安心して手術に臨んでいただくために、あれこれ知恵を絞っているところです。

最後は、相続人不存在の土地として、国に帰属することも含めて、これから考えて行かなければなりません。

 

今回のご相談で、相続人がいる方は、あとは貰った人が考えてくれ、という考えも成り立ちますが、相続人がいない方は、断捨離も一苦労すると実感しています。

出来るだけ、元気なうちにスタートすれば、打つ手の選択肢も広がります。

当社は、そのような「お一人」の方の良き相談相手としても、これから精進しなくてはと強く思いました。

 

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日本には、所有者不明の土地が北海道の広さ分あるそうです。

山林などは、明治時代から登記が放置されているものもあるとのこと。

鳥取の司法書士さんが、生前贈与された山林2万㎡を、国に引き取って欲しいという訴訟を起こし、請求は却下されましたが、国や自治体も土地をもらうと管理コストは税金でまかなうため、気軽にもらってはくれません。

 

お子さんのいらっしゃらないご夫婦、独身の方、兄弟姉妹には相続させたくない方は、所有しているがための悩みがあるものと思います。

生前に、何か社会や子供たちのためになる使い方が出来れば、お一人でも、孤独ではないと思います。

当社の研究分野として心に留めて行きます。