今回は、3年がかりで家を売却した事例です。

Tさんとは30年来の知り合いでした。経営者の団体で知り合った仲でした。

28年前に建てた家にも何回も訪れたことがありました。

その家は、一年がかりで大工さんと打ち合わせしながら建てた家で、ヒノキや自然素材をふんだんに使ったので、30年近く経っても、玄関を入るとヒノキのいい香りが出迎えてくれます。

 

家の売却、同じ価値観の人を

ヒノキの香りがする広い玄関

 

お子さんが3人いらしたので2階は3部屋ありましたが、この間取りも、子育ての方針に沿って「壁がない」のです。

一応、襖で仕切ることは出来ますが、正確には3部屋分のスペースと言ったほうが良いくらいです。

子育て方針は、部屋に閉じこまらずにオープンに、受験期やその時の子供たちの状況によって、3人が好きな場所をとる、というもので、襖を全部取ると20畳くらいの開放的なスペースで風通しも良く、とても気持ちが良い場所です。

 

間仕切りをとった個室

 

そのTさんから「70歳を期に、夫婦二人になったし、健康なうちに、自営の仕事も辞め、一年の半分は農作物を育て、あとは旅や読書や街めぐりをして暮らす」という報せをいただき、ついては、広すぎるこの家を処分して、田舎でもいいので、ちいさな家と畑ができる土地を買いたいという計画をお聞きしました。

条件として、築20年で木造住宅は無価値という通説を鵜呑みにしている方には譲りたくない、50年以上は問題なく住めるような素材と構造にしたので、家の年齢はまだまだ半ば、それが分かっていて良いと言ってくれる方を探して欲しい、というものでした。

 

不動産の仕事をやっていて、このテーマにいつもぶつかります。

家そのものはTさんのおっしゃる通り、補修をしながら住めば50年、60年はもつ家だと思いましたし、知り合いの建築士に細かく見てもらい診断した結果も同じ結論でした。

ただし、1階に事務所が併設されており、いかにも建売住宅や住宅展示場で見慣れた家とはかなり隔たりがあり、これは時間がかかるかもしれない」と思いました。

Tさんも、急ぐ必要はないので、じっくりやって下さいという意向でしたので、お引き受けしました。

 

 

それから3年、自然素材の家で子育てをしたい、さらに自営で使っていた事務所は、ご主人の趣味の部屋としてピッタリ(奥様の弁ですと、臭いがする趣味なので「隔離」できて良かったとのこと)というご家族の目にとまりました。

無事ご契約、お引渡となりました。

家は価値観の同じ人が次も入る、という格言めいた言葉が不動産の世界にはありますが、こんなピッタリというのも、私の30年以上の経験で多くはありません。

 

 

Tさんは、今は5月から10月は北海道の秩父別という町で、滞在型の市民農園を借りて半年暮らし、半年はまだ仮住まいですが、今まで住んでいた町の小宅に暮らしています。

気温は東京より10度位涼しく、春から秋に住むには快適で、全国から同好の士が集まって、親しい人も出来たとご連絡がありました。

地元の農家の方が「田舎の親戚」というネーミングのサポーターになってくれて交流会も楽しいそうです。

 

10年前くらいから、リタイア後の野菜作り生活のために、雑草もとらず農薬もまかない自然農法を地元で学んでいたので、すぐに馴染めたとのこと。

何事にも準備万端なTさんは、リタイアするなら10年くらい助走をつけたほうが、いきなりやって夢と現実の差に愕然とすることがなくていい、という生き方の参考も教わりました。

 

収穫した枝豆を送って下さいました。色は鮮やかではありませんが、とても甘くて美味しかったです。