女の立場から

Yさんから離婚の財産分与についてご相談を頂いたのはYさん48才のときでした。

ご主人は一流会社のサラリーマンを早期退職して一念発起、自分で会社を作って仕事を始めたのですが、なかなか思ったように行かず、退職金もほぼ使い尽くしてしまいました。

 

同年令であり、これまで転勤で5回以上転居を余儀なくされ、その度不平ひとつ言わず夫についていった、どちらかと言えばおとなしく、つくすタイプのYさんでしたが、このままでは希望が見えないと、20年の結婚生活にピリオドを打つことになり、夫のもとを離れ家を出たのが2年程前でした。

お子さんは大学に通っていて、幸いにもYさんの実家からも通えました。

 

離婚には合意したものの、なかなか財産分与の話がつかず、弁護士を入れての調停になりました。

2年程経ったある日、Yさんから電話がかかってきました。何やら声が弾んでいます。

内容は、離婚調停中でしたが、やっと財産分与の話の結着がついて、ご主人が家を明渡してくれて、どうぞ好きなように処分して良いとなったとのことでした。

2年にわたる闘いで結末はついたとはいえ、その問の心身の疲労は並大抵ではなかったようです。

お子さんと実家の両親が支えになってくれたので何とか心が折れずに済んだとおっしゃいました。

 

 

戻るつもりのない家を処分するため、家の現地で待ち合わせしたところ、室内を見て、女が出て行った2年の歳月は、中年男性一人だとこんなにも荒れてしまうのか、よくぞこんなにまでしてと、Yさんはさすがにショックのようでした。

 

部屋の壁はカビで黒ずみ、布団も出しっぱなしで酸っぱい臭いが籠っています。

台所は汚れ放題。

ゴミもためていたようでした。

「私の居る頃は、お台所をしょっちゅう拭き掃除していたのに」と我が家の思い出を語ってくれました。

 

気を取り直して、世帯道具の処分、ハウスクリーニング、クロス張り替えなど全部おまかせいただき、売却できるように整えました。

結着がついてからの Yさんは強く、明るく、たくましい人に変身していました。

 

男の立場から

私はご主人も当然存じ上げていますが、遠くのご実家に帰ってしまったので、引越ししてからは、連絡は疎遠になってしまいました。

不用意な励ましなど望んでいらっしゃらないでしょうし、いつでも再スタートの時にお役に立ちたいと思っていることのみお伝えしました。

 

しばらくたってから、上京する用事があるので、一緒に食事でもというご連絡をいただきました。

ご主人は二人兄弟の次男です。

実家に戻って落ち着いたころ、父親から「私の相続の時は、全財産を長男に譲るから、あらかじめ遺留分放棄をしてくれ。」と言われたとのこと。

自分の事業がうまく行かないとき、相当な金額の援助をしてもらったこともあり、それは当然だと了解したとのことです。

 

しかし、父の生前に相続放棄しても無効なので、裁判所に行って遺留分放棄を申し立てて、許可を受けました。

そうすれば、財産を全て長男に、という遺言とセットで、問題なく次男には財産は渡らなくなります。

 

 

そんな顛末をお聞きしていましたら、「父は私に財産を渡したくなくて放棄の手続きを言ったのではなかったのです。」とポツリとおっしゃいました。

 

Yさんのご主人の相続権は、別れてもお子さんに残ります。

もしご主人が事故などでお父さんより先に亡くなってしまった場合は、お父さんの相続財産は、長男と別れた子供に行きます。

 

実家は商売をしていて長男が継いでいましたので、すべて長男に相続させたいのですが、お父さんから見れば孫が遺留分を主張したら抗えないのです。

もともと余り親密にはしていませんでしたが、離婚のゴタゴタがあってから、一切寄りつかなくなってしまった孫に財産を行かせたくない、もちろん長男の商売のほうに回したいという気持ちが大きいのでしょうが、そんな内容でした。

 

Yさんのご主人が遺留分を放棄していれば、その子供は遺留分を請求することはできません。

ちょっとほろ苦いお話ですが、人の気持ちも財産がからむと、特に離婚の時は本音が出やすいという事例でした。