卒業・進学・退職・入社・・・新たな人生の岐路、門出の3月に想うこと

いまここにある自分の人生でなく、ほんのちょっとした決断や選択で、手に入れられなかった人生・・・。もう一つの可能性としてあったかもしれない「使われなかった人生」。卒業・進学、退職・入社など、新たな人生の岐路、門出の時期になると、沢木耕太郎さんの ”世界は「使われなかった人生」であふれている” という著書名を思い出します。

19世紀最大といわれるイギリスの科学者ファラデーは、貧しい鍛冶職人の子どもとして生まれ、小学校を出ると製本職人の見習いに出されました。そこで科学の実験道具をスケッチしているうちに、そのスケッチの見事さに感心した人から子供向けの科学講演の券をもらいました。その講演を記録したファラデーのノートが素晴らしかったために、その講演をした科学者に見出され助手として雇われ、そしてファラデーの法則などのその後の大発見へと至ったそうです。これらの一つ一つが縁とも言えますし、もしそれがなかったらファラデーは市井の人として人生を閉じたかも知れません。

私の父は、成績が優秀だったらしいのですが、昭和恐慌と10人の弟妹のために小学校卒業で働くことになり、市井の人として一生を終えました。中学校に行っていたら違っていたかもしれない父の「使われなかった人生」はどんなものだったろう、お客様に対応するときにもそんな思いを馳せます。いま、目の前に現れているお客様の辿ってきた「縁」、さまざまな岐路、人生の節目で選んできた道、そして、その道の途上で出会えたことは、大変な確率だったと思えます。使われなかった人生の道のほうでしたら、出会っていなかったかもしれないと思いますと、商売よりもまず先に、何をして差し上げるために出会ったのかを考えるようになりました。

新たな人生の岐路、門出に際して、家の選択、住み替えにも、同様に「選択しなかった家」があります。我々は、岐路、選択に際して「そっと背中を押してあげる」ことも時にあります。もしあっちの家だったら・・・ということを十分想像して、やっぱりこっちだと思う方でそっと手を添えられる、そんな仕事をしたいと願っています。

春、住宅・不動産という仕事を通して人生の節目に立ち会えることの喜びを感じる季節です。本当に出会えてよかった、という会社になれるにはまだまだ高い嶺ですが、喜びながら上って行きたいと思います。貴方様の進む先の道に、春の花が咲き誇っていますようお祈り申し上げます。

竹内 健二